当店の伝統銘菓のひとつ酒元(さかもと)饅頭。この酒元饅頭に
関してはいくつかのストーリーがございます。今回その中のひとつ
をご紹介致します。
私は日々の製造に追われめったに接客に立つ事は出来ませんが
スタッフ退勤後の夕方に、いつも酒元饅頭を買い求められる
お客様の接客はなぜか出来ていました。私から「いつもありがとう
ございます。酒元がお好きなんですね」と話しかけますとお客様は
「私の主人が大病を患っておりまして。でもこの酒元饅頭は
おいしい、おいしいって食べるんです。今日もこれを買って今から
病院へ行くんです。こちらこそありがとうございます」と
おっしゃいました。
しかしその後そのお客様はぱったりと来店されなくなってしまい
ました。私はどうしたんだろう、あの方のご主人様は大丈夫なん
だろうかと案じていました。暫くして、その日も久しぶりに
接客へ出ると、そのお客様にまたお会いする事が出来ました。
私はすぐにご主人様の様子を伺いました。すると
「先日逝ってしまいました。でもこの酒元饅頭のお陰で、長く
生きながらえる事が出来ました。今日は仏壇に供えます。
本当にありがとうございました。」と目を赤らめて深々と頭を
下げられました。
自分の造る菓子が、人の命とも関わったなんて。今一度気を
引き締めて造らなければといっそう肝に銘じました。そのご主人様
に感謝すると同時に、天にご冥福をお祈り致しました。
今思いますと、偶然の重なりでありました。もしスタッフからの
又聞きですと、これ程までに心を揺り動かされる事はなかったかも
しれません。直接お客様から感銘を受けた、私にとってはとても
大切な出来事でありました。
店主